龍神様のはじまり

にわとりか、たまごか。親が先か、子が先か。

それらの答えはわからないが、私は、龍神は、『ヒトの想像』から産まれた。 ヒトがそう想うから、私は『そう』産まれた。しかし、産まれたその先は、ヒトの想いの外だ。

ヒトが増えるにつれ、社会が形成されるにつれ、願いは増えた。仕事は増えた。 私はヒトの想った『神』であろうとした。 しかしながら、私は全知ではなく、全能ではなかった。 ヒトは全知ではなく、全能ではないから。その『ヒト』から産まれた私も、全知ではなく、全能ではなかった。

私の能力は限られていた。やがて限界がきた。

村を訪れる呪いを返す中で、疲労が限界に達して、意識が朦朧として、どうなったのかは、覚えてなかったが、自分のせいで、その子は命を落としたのだと理解した。 ひとりでやっていくのは限界なのだと、理解した。

申し訳ないと思った。自分のせいで命を落とした子に、そんなことを頼むなんて、とは思った。 しかし最早限界なのだ。私は全能ではないのだ。誰かに助けを求めるしかない、そういう場面にきてしまっているのだ。 『神は孤高である』そんなヒトの理想を体現できるような能力が私にはないのだ。 今の私が守るべきは今生きてるヒトの命であって、自分の理想の姿なんかではないのだ。

「龍の子に、成ってはくれないか」

断ることはないと知っていた。『そう』だからこそ、その子に頼んだ。ずるいかもしれない。ただ、ただ、もう、私も限界だったのだ。

彼女は少し微笑んで、承諾してくれた。それのなんと、なんと深い安堵だったことか。断ることはないと知っていても、もし、もしその子が固辞すれば、私にはひきとめる術はなかった。無理にさせるようなものでもない。

ああ、もう、ひとりでやらなくていいのか、

それが、とてつもなく、幸福なことであることを、私は後に知ることになる。

トップに戻る